9 Books in 2019

飛騨高山で唯一の、地場の家具ブランドのテーブルや椅子をおいた素晴らしいスターバックスで「2018年の5冊」を書いてもう一年。一瞬のようにすぎた2019年を振り返ると、サイパンの美しい海でのスキューバダイビング、インド・コルカタを経由してバングラデシュ・ダッカに3年ぶりの帰還、夏の大雨に見舞われたバギオのエスノグラフィと、3度も海外で時間を過ごしたらしい。

とは言っても、それ以外の時間のほとんどを仕事に費やし、失敗に失敗を重ね、周囲には多大なる迷惑をかけてしまった一年でもあった。小さな成功体験を積み重ねた1年目から一転、業務の抽象度が格段に上がり、事業に関わる様々な戦略検討に向き合うことの難しさを学んだ。

Photo by Annie Spratt on Unsplash

人類学とエスノグラフィ

自身のTwitterでは粛々と報告をしているのだが、2021年の英国大学院進学に向けて、本格的に走り出した一年でもあったように思う。「デザイン思考」ブームを経て、人類学が古くから培ったエスノグラフィの知見が徐々にビジネスの領域に活用されている。UXリサーチや商品開発、マーケティングの分野でその存在感を発揮している一研究手法の、今後のビジネス応用、そのさきの社会課題に対する様々なアプローチへの応用の可能性について学びたいというのが、元々の背景(あんまり話していないけれど)。

とは言っても、元々ニッチな国や地域、その文化に触れることを楽しんできた自分としては、古典的な地域研究、人類学的研究に根ざしたエスノグラフィ、そのほかの質的研究手法にも強い関心がある。『うしろめたさの人類学』などで有名な松村先生をはじめとした数々の人類学者による『文化人類学の思考法』 は、家族やテクノロジー、戦争や平和といった様々な領域に置いて私たちが囚われている「あたりまえ」を問い直し、その外側へ出ていくための「思考のギア」を提供してくれる名著。私たちがあたりまえのように捉え会話している家族関係や、静かに、ただ着実に生活に浸透しているテクノロジーとの付き合い方など、ふと立ち止まってその思考のコリをほぐす素晴らしい章立てだ。

2019年は、個人的に非常に素晴らしいエスノグラフィにたくさん出会った(個人的な興味の色が強いが)。法政大学大学院のゼミでもご一緒させていただいた八田さんの著書『覚醒せよ、わが身体。─トライアスリートのエスノグラフィー 』は、日本トップレベルであるご自身の競技経験とその身体を対象に、トライアスロンという極めて過酷なスポーツに挑むアスリートたちの極限状態について、独自の視点で言語化を試みている。世界最大級のレースに共に挑んでいるような臨場感と、ゴールテープを切ってその場に倒れこむような爽快な読後感は忘れられない。『ひとりで暮らす、ひとりを支える ―フィンランド高齢者ケアのエスノグラフィ―』は、先に紹介した松村先生の共著者であり、フィンランド島嶼地域に暮らす独居高齢者に関するエスノグラフィを実行してきた髙橋絵里香によるもの。家族に被介護者をもつひとりとしても、「ケア」という大きな概念だけでなく、高齢者を主語とした「老い」の本質や、「記憶」の問題について鋭いヒントを与えてくれる。

Photo by Hendri Sabri on Unsplash

愛と知性について

国際政治学者の三浦瑠麗『孤独の意味も、女であることの味わいも』 は、政治番組での鋭い議論とは異なり、優しい文体でその幼少期や以後の暮らしについて綴ったもの。柔らかい文章の中に確かな知性と強靭さを併せ持つ。川内有緒『パリの国連で夢を食う。』 は、31歳でパリの国連機関に赴任した経験と、そこでの官僚生活、ユニークでキュートな同僚たちとの交流について綴った一冊。同『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』 は、愛すべきバングラデシュの地に伝わる「バウルの歌」について、その正体を求めた12日間の濃密な旅について描いている。

ティム・ブラウンによる『デザイン思考が世界を変えるは、たった今読み終わったばかりなのだが、世界的に広がるデザイン思考の本質とその要素単位の重要性、その革新的なメソッドを活用した様々な事例を引用した名著。MOTHERHOUSE山口氏の『Third Way(サードウェイ) 第3の道のつくり方 は、二極化した世界において、ふたつの相反する要素を掛け合わせることで未来の生き方を探っていく、「働き方」を超えた「生き方」に関する一冊。

Photo by Andy Køgl [the visiter] on Unsplash

今年の年末年始に読んでいるのは、ティム・インゴルド『ラインズ 線の文化史』の原著、そしてユヴァル・ノア・ハラリのベストセラー『ホモ・デウス』 の原著(英語アピールをしたいのではなく、原著の方が圧倒的に安い)。そして劉慈欣『三体』とTakram佐々木さんのおすすめ、セス・フリード『大いなる不満』

個人としては社会人3年目、大学院受験を控える2020年。引き続きエスノグラフィに没頭しつつ、デザインやイラストの仕事も増やしていきたい、そんな密かな野望を抱きつつ、着実に前に進む一年にしたい。来たる2020年も、どうぞよろしくお願いします。